転校二日前の夜

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一一一ガチャン 破壊音が聞こえて振り返ってみれば呆然と佇む話し相手。 皿を拭いていたらしいが見事に落っことし、右手に覆い被さった“うっちゃり”と書かれた手拭いが実にシュールだ。 「危ない。皿、割れてるぞ」 「え、メカネ……。さっきの話って本当か?」 「本当も本当。つか皿片付けろ。踏んづけたら痛いぜ、それ」 「……ああ、痛いだろうな」 ならばさっさと片付けるべきである。 厨房の奥から箒と塵取りを持ってきて話し相手に渡した。 「ほら」 「ああ、サンキュ……じゃなくて!」 「なんだよ。皿を落としたのはお前だろ、木嶋」 「誰もお前のせいなんて言ってねーよ。いや、原因はお前なんだけどな」 責任転嫁だろうか。皿を落としたのは話し相手である一一一木嶋 彼方(きじま おと)。 幼なじみ兼親友兼雇い主。 うむ、複雑で分かりにくいな。 説明すると、オレと木嶋は幼なじみで、更に木嶋の家は地元民の間では名の知れてる定食屋を営んでいてオレはそこで働かせてもらっている。 だから雇い主。正確にはお上さん一一一木嶋母が。 「よりにもよってあのホモ高校かよ。お前、襲われるわ」 「……木嶋。ホモ高校ってなんだ」 不穏な響き。今オレが皿を持っていたら危うく落とす所だっただろう。 「だから阿部大学付属高校……アベ高か? その俗称」 「あー……理由について。教えてくれると助かる」 「無駄に高い顔面偏差値、顔面格差社会、それによるホモ及びバイの大量発生。思想は自由だからな」 不吉な響き。今オレが皿を持っていたら確実に落とした所だろう。木嶋の二の舞だ。 「思想は自由、ね。……こんな時期に転校だから尚更気になっちまうな」 「知ってるか? 姉貴曰くだがそれ、王道って言うらしい」 分からない話だ。王道とはなんぞや。 しかし木嶋に何と脅されようとアベ高への転校は決定事項なので揺るぐことはない。 というか変更とか不可能だ。  
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