転校二日前の夜

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一一一いいさ、別にアベ高がどんな校風でもオレみたいな通行人Aのモブ体質はそうそう網には引っ掛からないだろうし。 「甘いぜメカネ。女顔って程じゃねーけど童顔でちっこいお前なら外角ギリギリストライクかも知んねぇだろ」 「木嶋。オレはお前の言葉の意味が理解出来ないよ」 木嶋から空になった塵取りと箒を受け取り片付ける。 時計をみれば午後九時を回った所で普段はあと一時間ぐらい、こうして談笑を続けるものだが明日は定休日で明後日は登校日。本日はお暇させてもらう。 「そんじゃな木嶋。精神攻撃をどうもありがとう、寂しくなったら会いに来ていいぜ」 「おーおー、さっさと行きやがれ。胃袋が悲鳴を上げたら考えてやる」 マイエプロンを畳んで木嶋に渡しておく。 何だかんだ言いつつも受け取って棚に仕舞う木嶋は律儀だ。 結局は他人を無下に出来ず中途半端にイイ人をやってる阿呆。 実は三人兄弟の末っ子。この間彼女と別れたらしい。浮気をしたとかされたとか。御愁傷様。 「何か今腹立ったけどお前何考えてた?」 「木嶋はイイ人だな、と」 「……腑に落ちねぇ。ま、そこまで喰えないお前なら平気か」 ……うむ。どうやら木嶋はオレの心配してくれていたらしく不貞腐れたように頬を膨らませている。ガキか。 全くコイツは昔から素直じゃない。天の邪鬼ではないが本音が言えない質なのだ。 しかし、心配されて悪い気はしないので吹き出しそうになるのを堪えつつ木嶋の頭の上で腕を組み、顎を乗っける。 相変わらずのジャストフィット感。一家に一台、木嶋の時代。 「重てーよ」 「愛が?」 「そんな歪んだ愛はいらん」 言われた瞬間、何となく木嶋の肘を抑えた。 案の定、手前に引かれた腕は腹フック寸前。危ない危ない。 「俺の愛だ。受け取れメカネ」 「痛みを伴う愛はいらん」 「死ね眼鏡」 「眼鏡に罪はない」 くだらない会話が続いた。 そんな言い合いが終わったのは普段通りの十時頃でその瞬間に男子特有のオレたち何やってたんだ現象。 木嶋曰く一一一賢者タイムに襲われたのだった。  
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