890人が本棚に入れています
本棚に追加
二年前のクリスマス、わたしは浮かれていた。クリスマス仕様の料理とプレゼントを用意して彼を待った。
なのに彼は、来なかった。それまで彼の異変に気付かなかった。
漸く事情が飲み込めたのは、年明けだった。他社に彼を連れ去られ、何事もなかったように先方の会社社長のお嬢さんと縁談が纏まり、秋には結婚する事を知った。
暫くしてわたしは、会社を辞めた。そして優奈のお父さんにまた、助けてもらった。
「政春くんみたいの、忘れちゃいなさいよ。美咲は、可愛いから、直ぐに彼氏出来るって。」
「うん…けど、また捨てられるかも…憂鬱だなぁ。」
「パパ、心配してたよ?ちっとも楽しそうじゃないって。」
仕事中は、目立ちたくないから営業スマイルを顔に張り付けているのに、やっぱり見破られていた。
でも、本社従業員2000人近い会社で、社員の顔と名前と部署を覚えていられるお父さんに納得したり、驚いたり…はたまた地方支社の人や傘下の会社人事まで、頭に入っていたりする、"おじさん"こと副社長にも、呆気に取られたりもした。
「社員食堂でね、副社長に『早く恋人を作れー。何なら息子を紹介するぞ。』って言われた。」
「尚登を?」
「うん。従姉弟だっけ?」
「そう。いい子だよ?気が利くし優しいし。それに看護師さんなんだよ。いつ親父が倒れてもいいように、待機してるですって。透伯父さんってば、倒れるときも、前のめりなんだろうな、きっと。
年下って言っても4歳程度だし。大志と同い年だからね♪」
「4歳…憂鬱だなぁ。」
「もぅ、その口癖止めなよ。」
優奈は、わたしの肩をポンポンと叩くと顔を上げさせた。
「楽しまなきゃ!」
「うん♪」
優奈は、お嬢様しない。ちっともセレブっぽく振る舞わない。時と場合で違うかもしれないけど、優奈の家族は暖かくて優しい。そんな中で育った優奈もやっぱり同じ。
優奈と過ごす時間は、とても楽しい。でも家に帰ると、孤独だと思い知らされる。だからと言って恋愛がトラウマになっているわたしは、安易にそれを選べない。
最初のコメントを投稿しよう!