別れと出会い

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その日の営業も終わり 帰宅しようとした時、 「綾菜ー!送ってやんよ」 珍しく慎吾さんが送ってくれると 言い出した 「まじ(笑)やった! 寒いから歩きで帰るの嫌だったんだよね」 うちは早々に慎吾さんの車に乗った 「さみー、暖房つけて!」 「はいはい(笑)」 暖房のスイッチを入れると 車は静かに発進した 心なしかいつもより速度の遅い車 車内の会話は、ない ちょっと泣きそうになった 窓を開け、煙草に火をつける 心なしか少し落ち着いた 「はー、疲れた」  独り言のようにポツリと呟く慎吾さん 「お疲れ様でした」   自分で言っといて泣きそうになる まるで最後みたいだなって 「綾菜?」 「ん?」 「ありがとね」 なんで、こう、 人が必死に堪えてんのに… いつもありがとなんて言わないじゃん 「…うん」 「いや、お前そこは 此方こそだろー(笑)」 「ちょ(笑)」 慎吾さんの一言で空気が変わる しんみりした空気が あっという間になくなった 「へい、着いた」 「へい、どーも!」 勢いよくドアを開け、外に出た 外は冬の寒さになっていた 「またね!」 「おう!」 バタンッ 車が見えなくなるまで手を振った 「ありがと」 独りポツリと呟いた 面と向かってありがとうが言えないうちはその場で暫く静かに泣いた
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