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《レイ》
僕たちが集合場所の中央広場に行くと、見覚えのある姿が一瞬で目に入ってきた。
背の丈三メートルほどもあり、全身が黒い甲殻に覆われている。甲殻を筋肉が押し上げているのは一目見れば誰にでもわかるほど。顔はまるで岩でできた彫刻のようで、細い目が赤くかすかに光っているように見える。頭髪はない。
人型はしていても、間違いなく人間ではない彼の名前は、ゲイル。僕はその異形に声をかけた。
「ゲイルさん、さすが早いですね」
彼もこちらに目を向け、言葉を返してくる。
「ああ、不測の事態がいつあるとも知れないからな。いつもどおりに行動することができるならば、そのほうがいいだろう」
「いつも集合時間の三十分前にはいますからねぇ、ゲイルさんは。僕など三十分あればメイド喫茶に行ってしまいたいところです」
「ないけどね。メイド喫茶」
パールさんが後ろから言う。
ゲイルさんは探偵さんを見下ろす。というか必然的に全員を見下ろさざるを得ない。
「お前たちはもう集まっていたのか」
「レイと会ったのは偶然。ゲイルは何か買ったのか?」
「いや、私は少し食事をとっただけだ。しかし田舎の店はどこも天井が低いし狭いな。店を壊さないように気を遣った」
「でけぇからなぁ、お前。っつーかそのナリでよく注文できたよな。声かけた端から逃げていきそうなもんだけど」
「大抵は声をかけると凍りつくようだが」
「まあ、仕方ねーな。お前を見るのって、何の変哲もない大きな岩が急に立ち上がって宙返りするのを見るようなもんだし」
「それは確かに凍りつきそうだが、怖いのとは違わないか」
四人になったところで、宿を目指す。
僕は並んで歩く探偵さんとパールさんの後ろで、退屈しのぎに横のゲイルさんに話しかけた。
「ゲイルさんの好きなアニメは何ですか?」
「そもそもこの世界にはテレビがない」
一蹴されてしまった。世間話を振るのが難しい相手だ。
仕方ない、もう少し相手に合わせた話題にするとしよう。
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