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《ゲイル》
夜。
私は私自身にとっては狭い宿の部屋の中、床に寝転がっていた。ベッドはあるものの、私が横になれるような大きさはない。代わりにレイがそこにいる。
部屋は別だが、つい先ほど探偵が私の部屋に集まるように言ったらしい。今はパールの部屋に呼びに行っているのだろう。そして例によってセクハラでもしているのだろう。
「――――っ!」
宿のどこかでパールの声が響いた。予想通りだったようだ。
「懲りませんねぇ、探偵さんも」
「あいつに懲りるということはない。お前と同じくな」
「僕は常に反省し、それを生かすタイプですよ?」
レイは左手に持ったものに息を吹きかけた。細かい塵が宙に舞う。
「何だ、それは」
尋ねると、レイは笑みを浮かべてそれを私に見せた。木彫りの置物のようなものだ。
「巨大な糸鋸を使って悪人を切り伏せるとある魔法少女の自作フィギュアです」
右手には彫刻刀が握られていた。
私は少し呆れて訊く。
「それで何体目だ?」
「五体目です。糸の部分がすぐに折れてしまうんですよ」
「懲りろ」
そこでドアが唐突に開き、笑顔の探偵と仏頂面のパールが入ってきた。私はこの部屋では立つことが難しいために横になったまま出迎える。四人にもなるとスペースもぎりぎりだが、私以外の三人は全員ベッドに腰掛けた。
「いやー、やっぱ宿は夜這いに限るよな」
「ねぇ、ゲイル。宿に斧って常備されてなかったっけ?」
何が起きたかは想像するまでもない。
「……探偵。まず話すことが出来る環境を整えてから来い」
ともあれパールもここで暴れるわけにもいかない。
人間用の宿は魔族には危険なのだ。簡単に壊れるからすぐに弁償させられてしまう。私など一歩一歩を地雷原を進むように慎重に踏み出さなければならなくなるほどだ。
「話って、次の目的地のことですよね」
レイが空気を変えようとしてか、探偵に質問した。探偵はにっと笑ってうなずいた。
「そうだ。手紙の中からここから近くて面白そうな依頼を見つけた」
探偵は懐から書状を出して、ベッドの上に広げた。他の二人が覗き込むので、私も上体だけ起こした。
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