プロローグ

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 俺がまだ子供のころの話だ。  世界は一時的な平穏をようやく得ることに成功し、しかしその爪痕が至るところで人々に影響を及ぼし続けていた、そんな時代。 「世界とは、何者かの心がレンズ越しに投影されたようなものなのですよ」  そのころ住んでいた場所の近くにあった山を探検している途中、俺はその男に出会った。 「であるがゆえに、あなたがたの住むこの世界はその何者かの意思に直接的に作用されるのです。それはあなたがたにとって、理不尽でしかありません。あなたにはそれがよくわかるでしょう?」  山の中を駆けずり回って遊んでいた俺の前に現れた男は、奇妙な格好をしていた。  服はこんな場所に居るには似つかわしくない正装。それに白いリボンのついた大きな黒いシルクハットを頭に乗せていた。 「あなたは、この世界を構築している核であるその何者かを、いずれ捜す旅に出ることになるでしょう。ヒントはいくらでも見つかるでしょうけれども、しかしあなたが明確な回答に行き着くかどうかはわかりません。そしてたとえ行き着いたとしても、それで何かが変わるというわけでもないかもしれません」  男は顔に分厚い化粧を施していた。真っ白な顔面に、右目にはピンクの大きなハート。左目の下には青い涙のマーク。唇をはみ出すように赤く口紅が引かれていて、その顔は固定されたような不気味な笑みを浮かべ続けている。
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