プロローグ

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「ワタクシは本来単なる裏方でしかないのですが、最近はいろいろと状況も変わりまして、表に出てくる機会も増えてまいりました。今回のワタクシの役柄は単に役割を与える者なのですが、ワタクシはいざとなればそれを奪うこともできます」  俺は男の言っていることが理解できずに、そのときはただ呆然と、男の話を耳から無理矢理頭に流し込まれてでもいるかのように、記憶していっていた。  何年たってもこのときの男の話ははっきりと、不自然なほどよく覚えている。 「しかし世界は脆弱です。ですから無理に繋ぎ合わせたところで崩壊することになります。あなたが与えられた役割は、別の誰かが補完できるようなものではないのですよ。本来はね。ワタクシなどがあなたの代わりに入ったところで、まさに道化もいいところ。そんな世界は破棄してしまったほうが良いくらいでございます」  男は金色の瞳で俺を射抜く。 「ワタクシがあなたの目の前にこうして現れたこと。その意味を、いずれあなたは知ることになる。そのときあなたは必ず世界を知りたいと思うようになる。それがあなたの物語の始まりなのです」  男は笑い、腰をかがめて俺に顔を近づけてきた。 「あなたもせいぜいワタクシに役を奪われないようにお気をつけくださいませ。ワタクシもそのような茶番を演じたくはありません。せっかくの意思なのですから、つまらない道化師の一人芝居などで台無しにしてしまいたくはないのですよ」  男は軽く首を傾けて言った。 「あなたがワタクシ以上にくだらない存在でないことを、ワタクシは心より願っておりますよ」  そして、気がつくとすでに男は消え、山は日が暮れかけて景色は赤らんでいた。  俺は山を降り家で食事をとると、いつもと同じ時間に眠りについた。  その日の夜、俺はこの大陸中を旅してまわる夢を見た。
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