第二章 師匠

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「……?」  わたしは何の話か急にわからなくなり、隣のレイに目を向けた。レイも同時にこちらを見たが、わたしと同様にわからないようだ。  ロアンが言う。 「ワタクシはあなたが魔術師と一対一で戦った経験がないことを存じております。遠距離や仲間とともに戦うことはあったようですが。ですから、ワタクシが一度それを教えて差し上げようと思うのですよ」 「はあ……。ま、最初に師匠と戦っておくのも悪くはないか。悪くは」  探偵さんは上体を起こし、手を床につくと一気に立ち上がった。その右手には愛用のステッキがある。  ロアンも音もなく立ち上がり、小屋の唯一の出入り口に向かう。  わたしとレイとゲイルはアイコンタクトを交し合い、意思の疎通を図る。それぞれ考えていることはどうやら同じらしかった。  見たい。  探偵さんがロアンに続いて小屋から出て行くと、わたしたちは一斉にその戸に群がった。 「おや、戦いの場に観客とはありがたいですねぇ。ワタクシはこれでも道化師でして、観客のいない舞台よりは、いる舞台のほうを好むのですよ」  ロアンは室内からの明かりに照らされ、暗闇を背にして恭しく一礼した。 「展開も結末もわかりきっているのに必死になって、そして自滅する。それを見て人は滑稽だと笑う」  ロアンは蔑むように笑む。 「そしてそれを知ろうと知るまいと、ただ踊るのが道化というものでございます」  金の瞳は月のように妖しく輝いて見えた。 「あなたもワタクシも、せいぜい愉快に踊ると致しましょう。それはもう、わけもわからず無意味に、ねぇ」
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