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《探偵》
翌朝。
俺たちはさっさと準備を済ませて小屋を出る。晴天だ。
師匠は寝る前にどこかに行っていたが、いつの間にか戻ってきていたようだった。
ついさっきまでは小屋の中にいなかったはずなのに、今は小屋の中から俺たちを見送っている。態度も服装もいつもどおり。俺としてはそれが最も奇妙だ。
「皆様、お気をつけて。日暮れには九の国へたどり着けることでしょう。それから、そこの名もない方」
まあ、俺のことだろう。
「何だよ?」
師匠は見透かすように金色の瞳で微笑みかけてくる。
「五年前、あなたが出て行ったときのワタクシの言葉を覚えていらっしゃいますか?」
当然だ。
「ああ、まあな」
「それは結構でございます。では、よく観察なさることです。そうすれば、レンズの向こう側がいつしか透けて見えてくることでしょう」
「……」
俺は少し黙って師匠の目を探る。しかし、やっぱり駄目だ。何を考えているのかまったく掴めない。
だから俺は尋ねてみることにした。
「師匠は、やっぱ変態なのか?」
すると、にこやかに返してくる。
「具体的には?」
「うぐっ、……質問返しは反則だろ。でもそうだな、格好がまさに変態だ」
「おやおや、道化師が道化に扮するのは自然なことと思いますが? それに自らを探偵などと呼ばせる痛々しさに比べればまだまだ」
「言っちゃったな、それ。自分を勇者って言うのよりはましだと思ってるんだけどな」
「それは職業的な意味で言っているのか、自らの在りようを示しているのかによって変わってきますね。しかしこの世界に職業としての探偵は存在しませんから、自分が探偵だというのはつまり、自分が頭が良いと。……やれやれ」
「いや、別にそういう意味じゃ……」
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