第一章 俺とわたしと僕と私

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 《パール》 「あ、出てきた」  わたしは謁見の間の大きな扉の向こうから現れた彼を見つけて近寄っていった。  周囲は人間ばかり。人ではない身であるわたしとしてはやや肩身が狭い。 「おっ、パール。中に入ってきてたのか」  癖の強いぼさぼさの髪、高めの背だが、シルエットは引き締まっている。顔も整っているほうだろう。ただ、表情によって大人っぽくも子供っぽくも見える。実際の年齢は二十歳前後。正確には知らない。  旅の必需品である茶色のマントを羽織っているほかは軽装。右手に細長いステッキを持っている。  扉を背にしてステッキをぶんぶん回す彼と並んで歩きつつ、わたしは彼の言葉にうなずいた。 「うん、あとの二人が買い物に行っちゃったから、知らせに」  わたしと彼、そこにあと二人で合計四人。この四人でわたしたちはこの大陸中を旅している途中だ。 「探偵さんは集合時間までどうするの?」  彼は自分のことをそう呼べという。一緒に旅をして一年くらいになるけれど、本名は知らない。もちろん何度も尋ねてはいるのだけれど。  ちなみに今の時代、この大陸において『探偵』という職業は存在しない。呼ばせている本人は、似たものとして諜報員や便利屋を挙げていた。 「んー、そうだなぁ。紙芝居でも見に行くか」  予想外の答えが返ってきた。 「え、何で? そんな趣味あったっけ?」 「いや。世界観を説明するのに便利だから」  ……世界観? 「…………一応訊くけど、誰に?」 「テレビで言うところの視聴者。ラジオで言うところのリスナー。舞台で言うところの観客」 「ああ……そういう感じでいくんだね、この先」  あっさりいろいろと台無しになってしまった気もするけれど、つまり正解は読者。 「そういうこと。物語的な三流を目指していこうぜ」 「……別にわたしは目指さないよ?」  さっそく方向性についての意見が食い違う。いきなりいろいろ前途多難な感じだ。
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