第1話:白い太陽と黒の百合

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私市立聖輪舞(ロンド)女学院 ―。 その歴史は古く、創設されたのは明治初期。 日本の近代化に合わせ、女性にも教養を学ぶ場が必要だという考えによって創立された。 名前の通りモデルにされたのは当事の英国のパブリックスクールであり、キリスト的なシステムを取り入れた言われるミッション形式は現在になっても連綿と受け継がれている、いわゆる『お嬢様学校』である。 戦後はしばらくは幼稚から大学院までの一貫教育施設で、基本的には今もそれに変わりはないのだが、ここ十数年のうちに外からの生徒も受け入れるようになっている。 一応として掲げる理念は慈悲と寛容、そして貞淑。モデルがモデルなので年間を通して奉仕活動やミサ等もあり、他と比べると宗教色が若干ではあるが濃い。 加えて礼節や情緒といった面でも教育が行われるため、その辺りが普通の教育機関とは異なる。 ― そんな場所で上手くやっていけるんだろうか、俺は…… 少し時代錯誤を感じさせる、けれど立派な洋風の建物が近づいてくるにつれ、薫の不安も膨れ上がっていく。 「大丈夫です、薫様。何も問題ありません」 無表情のままサムズアップする凛。 まだ一緒に過ごして1月にも満たないが、彼女はこれでいて結構薫を元気つけているつもりなのだ。 「…有り難う、凛」 「お礼は結構です。それよりも雪奈お姉様の護衛を宜しくお願いします、薫お姉様」 「が、頑張るよ…」 お姉様という単語に未だに背筋が震える。 去年から宮代 雪奈の調査のために学院に通いだしたという凛の話しでは、ここは上級生の事を名前+お姉様という形で呼ぶらしい。そしてこれから薫は最上級生としてこの学舎に通う事となる。 つまり、必然的にお姉様と呼ばれる事になるのだ。初めて聞いた時には愕然としたが、自分がそう呼ばれた時はもっとショックを受けた。これでも大部マシになった方なのだ。 と、そこで薫は煉瓦作りの正門付近が何か騒がしい事に気がつく。 「あれ、何か校門のところ騒がしくない?」 「恐らくは風紀委員の身だしなみのチェックが入っているのかと。これから始業式ですし、休みボケした生徒がいないか見ているのでしょう」 「…しれっと言ってるけど結構大事だから。お…私、通過出来る自信ないんだけど」
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