プロローグ:少年よ、乙女となれ

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「ついに来てしまった……」 七月 薫は快晴の空の下、誰に言うでもなく呟いた。 春も盛り、聖輪舞(ロンド)女学院に続く桜並木は降り注ぐ桜の花びらで溢れている。その上を赤と白を貴重とした可愛らしい制服に身を包んだ少女達が姦しく歩いていく。 そんなどこか浮世離れした光景を見て薫は足を止め、思わず深いため息をついた。 「お気持ちはお察ししますが、今の薫様は淑女です。軽々しくため息などつかないでください」 ― 誰のせいだよ誰の! 薫は思わず隣を歩く少女、柳原 凛を睨む。 少し青みがかった黒い髪をは今時珍しいおかっぱで、彼女もまた聖輪舞の制服に身を包んでいる。 今日からしばらくこの少女が世話役になると思うと気が落ち込む。 「ねぇ、やっぱり無理がないかな?ほら、周りの人達もこっち見てるし」 囁く薫の言葉に凛が首を横に振る。 「いえ、私は完璧だと思います。皆様が見ておられるのは薫様が美人だからかと」 「うぐっ…」 凛の言葉が薫の心に突き刺さる。 確かに薫は客観的に見て「美人」と呼ぶに相応しい容姿をしていた。 生粋の日本美人とも言える母親に似たためか、肌は陶磁器のように白く、キメ細かな長い黒髪、少し切れ長の瞳と相まって男女問わず道行く人を振り向かせる程だ。整った外見も相まってまさに生きる日本人形のように見える。 だが、いくら美人と言われようが、聖輪舞の制服がこれでもかといわんばかりに似合っていようが全く、これっぽっちも嬉しくない。 何故なら七月 薫のは性別は【男】だからだ。 それゆえ、本来はこういった場所には一番無縁のはずなのだが、何がどうしてこうなったのか、薫はこの聖輪舞女学院にしばらく通わなくてはならなくなってしまった。 ではなぜ男の身にも関わらず薫は女装してまで国内屈指の女子校に通う羽目になったのか。全ての起こりは1週間前にまで遡る。
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