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「素晴らしい…完璧、完璧ですよ薫君!」
「は、はぁ…有り難うございます」
3月…冬の寒さも殆ど抜け、いよいよ春の陽気漂い始めたこの季節、七月家には奇妙な来客が訪れていた。
年齢は30代といったところか、暖かくなってきたというのに黒い長袖のスーツを着こなし、合わせたように黒いサングラスをかけている。
そのせいで表情はわかりにくいが、彼は今、嬉々とした様子で手元の紙を眺めていた。
『お休み中に失礼、僕はロイヤルセキュリティの秋山 俊孝といいます。
七月 薫君、ですよね?
ちょっとお時間よろしいでしょうか?』
そんな言葉と共にこの秋山が春休み最中の薫の前にいきなり現れたのは朝の10時。
そこから彼が持ち出して来た【課題】とかいうものをなし崩し的にこなすうちに時刻は既に夕暮れ時となっていた。
今、この部屋にいるのは4人。薫と母、秋山と彼の補佐官だという女性が、2対2の形で四角いテーブルに向かいあっている。
そして秋山は先ほど届いた【課題】の結果に多いに満足しているようだった。
「うちの腕利き10人をあっさり連続抜き、成績も極めて優秀、そして何より容姿はお母様そっくりで端麗…」
「まぁ」
横で母親が微笑む一方で薫はムッとした顔をする。
「おっと失礼。君を怒らせに来た訳じゃないんだ」
「じゃあなんだっていうんです?朝からいきなり押し掛けてきて理由も話さず課題という名のテストを受けさせて意味あったんですか?」
「勿論だよ。僕達もそこまで暇じゃないからね」
そう言って秋山が隣の女性を見ると、彼女は頷いて鞄から資料を束ねたファイルらしきものを取り出した。
「実はね、薫君。君の実力を見込んでお願いしたい事があるんだ」
秋山はそれを受け取ると、あるページを開いて薫の前に差し出す。
そこにはまさに美しいとしか表現の仕様がない1人の少女が満面の笑みを浮かべた写真があった。
そのきらびやかな笑みに思わず薫は一瞬、言葉を失ってしまう。
「凄い綺麗な娘ね、薫ちゃん」
「いえいえ、お母様も負けてはいませ…おぐっ!?」
何気に母を口説こうとする秋山。そんな彼に横に座った女性が鋭いチョップを叩き込んだ。
「…で、何をしに来たんですか?」
薫は脱線しそうな話しの軌道を修正すると共に、再び秋山に尋ねた。
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