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んん゛!と秋山は咳払いを1つして今度は真剣な顔で薫を見た。
「あのですね、薫君。貴方にこの少女、宮代 雪奈(みやしろ せつな)さんを護衛して欲しいんです。聖輪舞女学院の学生に扮して」
「はっ…?」
一瞬、秋山から言われた意味がわからずにキョトンとする薫。
「今、なんて言いました?」
「だから、女学生に扮してこの娘を護衛して欲しいと」
「いやいやいやいやいや!!」
― どう考えてもおかしいだろ!
彼が言ってる事はもはや薫にとって常軌を逸しているとしか思えなかった。
「だいたいなんでそういう話しになるんです!?そもそも男の俺があの聖輪舞の生徒になんかなれる訳ないでしょう!?」
「まあ、後者はともかくとして」
― そこは逆だろ!
思わず声をあげそうになる薫を遮るようにして秋山は説明を始めた。
「薫君は、北条 純一郎を知っていますか?」
「…ええ、まぁ」
少し礼を欠く態度かもしれないが薫は答えた。
北条 純一郎はこの国きっての大企業、北条グループの社長であり、その分野はちょっとした家電製品から車、はてはパソコンのOSまで今や世界中のあらゆるものにまで拡大している。彼は天才的な商売センスによって僅か1代でビジネスを成功させ、その総資産は推定200億円を超えるとすらされている。
「けど、北条氏は確か先月に癌で亡くなったはずじゃ…」
北条グループ代表の死去は少なくとも1週間はニュースになっていたし、新聞にも大きく取り上げられた。
「そうですね。ただ、氏が残した遺言にちょっと問題がありまして…」
「問題…?」
「ええ。但しこれは内密ですので出来れば薫君の胸の中にしまっておいてください」
そういう秋山の表情はさっきと同じく真剣だ。
「…まだ俺、受ける気にはなってませんよ?」
「そこも含めて、ですよ」
納得いかない様子の薫を放ったまま、秋山は勝手に話しを続ける。
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