プロローグ:少年よ、乙女となれ

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「……」 薫はただ黙り込む。 果たして、本当にそれで良かったのだろうかと。 けど、氏が亡くなった今となっては既に遅い。 「そこで生い先短い北条氏はある事を思い尽いた訳です。今まで苦労させてきた娘達にとって、ある意味最も効果のある誠意を」 「金銭、ですか……」 「それもありますが、実際はこうです。 宮代 雪奈が聖輪舞女学院を卒業すると共に自分の実子と認める。また他の子達と同様に財産を与えると。まさに彼らしい破格の待遇な訳です」 確かにその通りである。 秋山の話しからして雪奈は恐らく認知を受けていない子供という事だ。 きっとこれまではさぞや大変な思いをしたに違いない。 だが、ここに来て北条氏が雪奈を実子と認めれば、彼女は遺産相続権を得る。 北条氏の遺産が巷の噂通りなら、不自由しない額が転がり込むのだ。 「無論、北条グループの事がありますから秘密裏にではありますけどね。 それで、この話しはここからが本質です。後に残された北条の家族はこんな話し寝耳に水ですからね。当然一家全員納得出来ていない訳です。言い方はあれですが見も知らない人間に財産を分けないといけない訳ですからね」 「けど、それでも彼方側の方が取り分は圧倒的でしょう」 現在のこの国の法律では遺産相続は配偶者に2分の1、そして残りりの半分が子供達の人数によって等分される。 北条氏の子供は確か現在3人。雪奈が入れば4人という事になる。仮に氏の財産を200億とすれば最悪でも175億は北条の家族の元に行き渡る。まあ、どちらにせよ想像もつかない凄まじい金額ではあるのだけれど…。 「まあそうなんですけど。けど、お金っていうものはいくらあっても困らないんですよ。 まして、彼方は我々一般人とは違ったレベルの贅沢が出来る人間ですからね。子供達もそこそこの年齢ですし、金の使い方だって知ってます。妻も妻で夫の稼ぎに甘んじてた訳ですから、急な節約っていうのはきっと難しいでしょうね。 何より宮代 雪奈がこの情報を掴めば、それをネタに揺すられるかもしれないとすら考えてるかも」
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