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母の物言いに薫は「ぐっ…」と言葉を詰まらせた。
薫の母親 ― 奏の実家たる七月家は古くから古今東西のあらゆる武術を習得、発展させてきた特殊な家系であり、その力を持ってしてこれまで様々な困り人を己の立場に関わらず助けてきたとされる。
明治半ばにはその功績や助けられた多くの人々が望んで華族となった珍しい家で、華族制が廃止された今でも本質は変わる事はない。
そんな七月の家に産まれた薫もまた、その特徴ともいえる性格をしっかりと受け継いでいた。
「大丈夫よ薫ちゃん。バレなければ良いのよ!」
「それが母親の言う事ですかっ!」
母親のあまりの物言いに薫が突っ込む。
「それに聖輪舞っていい所よ。特に薫ちゃんみたいな子は行ったら大人気だと思うんだけどな」
「…なんで母さんがそんな事知ってるんですか?」
「だって私、あそこの卒業生だから」
「えぇっ!?」
本日何度目かの衝撃を受ける薫。
「あら、言ってなかったかしら?」
「初めて聞きましたよ…」
「補足すると薫君のお母様 ― 奏さんは首席卒業、【黒い月姫】という一名を持っていたみたいですね」
秋山がさらりと情報を追加する。
「あら、懐かしい。そんな時代もあったわねぇ」
「あ、因みにこれは現理事長、槇原 結子先生からの情報です」
「まぁ!槇原先生は理事長になられたんですか?」
「ええ。一応の事情は説明して入学の許可を取ってあります。奏さんのお子さんが来る事を楽しみにしておられました」
空いた口が塞がらないとはまさにこの事だ。自分の知らないところでどんどん逃げ道が絶たれていく。
「け、けどほら!来月から俺は学校再開ですし」
「ご安心を。既に編入手続きを取らせてもらいましたので」
「はい!?」
「編入試験も特待生ばりの成績で合格。来月から薫君は大手を振って聖輪舞女学院を歩けますよ」
「編入試験!?そんなものいつ……はっ!!」
そういえば先程の課題と称して出された試験の中にはそれに近いものもあったような…
「い、いや…でもやっぱり男が女学院に行くのはどうかと」
「君も諦めが悪いですねぇ…」
肩を竦める秋山。しかしここだけは譲れない。
なんせ諦めた瞬間、人生が終わる気がしてならない。
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