「マゴノテ」  リュース・匙田

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ライトホラー短編集第1章 「マゴノテ」  リュース・匙田 作  28才の僕が、リコとの新婚生活を、東京郊外のSニュータウンの新築マンションで始めることができたのは、幸運だと思う。  東日本大震災に遭い仮設住宅で、厳冬を過ごさなければならない人々の手前、あんまりはしゃいだらヤバイけど、「新」が三つも重なるなんて、まじラッキーだ。  ただ、リコに言わせると、四階の404号室に住むってのが縁起が悪いんだそうだ。  だって、最後にそこだけ残っていたのだから仕方がない。  「エンギ?ってチョー古いのが、笑える。」と、僕は相手にせず404号室を予約した。  「W大理工学部卒、どこまで自信過剰なんだ、オイオイ?」  同じ大学の国文卒のリコも、負けてはいない。  まあ、僕たちはそんな瑣末な云い合いを日常炒飯にしながら、結婚を選択したって訳だ。  ところが、リコを狂喜させるような情報が、不動産会社の担当とリコが電話で話している最中に、偶然はいってきた。  「403号室が、キャンセルになりましてねえ」  担当者がポロっと、そう言ったのだそうだ。  固いこといえば、マル秘情報リークだけど、それを見逃すってリコではなかった。  その日の内に僕に相談もなく、不動産屋へ押し掛け予約の変更をきめてきたのだ。  「チラシなんかで追加募集する前だったから、セーフよ、やった、やったあ!」 と携帯で、叫びまくっていた。  僕たちは、ウェデイングを東京で無事にすませ、Sニュータウン「銀河レジデンス403号室」から、新婚生活をスタートさせた。  隣の404号室に、一体どんな人が入居するのか、僕もリコも若干気になっていた。  やっぱり、室番号が敬遠されたんだろうか、ほぼ一ヶ月ほど空室になっていたが、ようやく隣で人の気配がしはじめた。
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