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「お隣って、どんな人かしらね」
リコは、好奇心まる出しだ。
「なんか、子供の声がしてたぞ、ちっこい女の子のさ」
「あら、じゃあ、若いご夫婦だ、やったねツ」
リコは人間が好きで、友達を作るのが実にうまい女だから、同年代くらいの夫婦が隣に住んでくれるなら、それはもう有頂天に決まっている。
404号室に、引っ越してきた家族は、三週間たち、ひと月たってもべつだん引越しの挨拶には、現れなかった。
朝食の時、うすピンクのエプロン姿で、目玉焼きを作っているリコに僕は訊いた。
「ふつう、引っ越したら向こう三軒両隣りに、挨拶するもんだろ?」
「そう・・・かも」
「ひと月か・・・もう来ないな。時代が時代だから、それもアリか」
僕的には、一応解ったような注釈をつけてみたものの、何となく自分達とは肌合いの違う種類の人間かもなあと、ぼんやり感じ始めていた。
「圭太、もし、会ったらちゃんと挨拶するのよ」
O型、楽観論者のリコったら、母親のつもりかよ、と思うけれど、それもそうだ。人それぞれだし、その程度の違いを超えてゆかなければ、いい感じの近所付き合いなんて、そうそうできるものではないのだろう。
「オッケ、オッケ」
僕は、食べ終わった食器を流しへ運びながら、答えた。
僕は、大急ぎでスーツに着替え、エレベーターで共用駐車場へ降りる。
駐車スペースは、部屋番号順に輪留め部分へ白ペンキで書いてある。
隣の404号と書かれた場所には、よくホンダの赤い軽が駐車してある。
「あれ、ずっとこの車って事は、奥さん用?」
他人の詮索をあれこれするなんて、下品なのは分かっているが、隣室だから気になる。
そう言えば、明らかに女性用と思われる赤い軽以外の車を見ていない。
ご主人用が、別の場所に確保されている場合もあるが、このレベルのマンション住民なら確率的にその可能性はかなり低いはずだ。
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