「マゴノテ」  リュース・匙田

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「うっせえの。・・・ママ、おちごと」  「おちごと、かよ」  「バーバ、あっち」  「何処かあっちの方で床屋をやってんだ、ママがな、ふむふむ」  「ばーか、おばあちゃまが、あっちにいるよ、ってこと」  「バーバ、あっち・・・つまり、おばあちゃんとミクたんとでお留守番?ママはおちごとで?」  「ピンポン・・・そうらしいの」  「そうか、それで、やけに静かなんだ。時々、ミクたんの声がするくらいで」  「じゃあ、ミクたん、パパは?」  「うわ、突っ込むう」  「パパ・・・パパ、おほったま・・・」  「なに、それ」  「・・・お星さま。亡くなったらしいの。」  「うえ、かわいそ」  「もう・・・胸いたかった、あたしイ」  「で、どうなった?」  「バーバは、どこ?って、もう一度、境界板を開けたら、さっきは姿が見えなかったのに、お婆さんがポツンて、低めの、ほら、海水浴なんかの折りたたみ式の・・・デッキ?あれに座っていたの。」  「で、挨拶して、お知り合いになりました、チャンチャンっと!」  「ちがう。こんにちわ、って声かけても、聞こえないみたいなの。ただ、外壁とサッシ窓の間にある柱、うちのそれよ。そういうのに、背中をいっしょけんめい擦りつけてるの。」  「背中を・・・すりつけてる?」  「カユイみたいなんだな、ぽかんって口開けて」  「ふえー、アルツハイマー?」  「どうかな。そこまでいってはいないと思うんだけど。よく見たら、膝の上にベージュ色のチワワみたいな、ワンちゃんがいて、小首をかしげて私を見てたわ」  「で、お婆ちゃんは?」  「もう一度、大きめにコンニチワ、って言うと、ゆっくり、もうスローモーション映画くらいに、ゆーっくり、私を見たの。」  「年寄りって、そういうもん」  「でも、目がうつろで、ぜんぜん私を見てないみたい・・・」  「マジかよお」
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