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岸に上がると、白蓮の怒った顔が柊司の目の前に迫る。
「……どういうつもりです?」
「誠意を、見せたつもりです」
既にスライムが浸食を始めている顔。
その顔を白蓮はひっぱたいた。
乾いた音が森に響く。
「誠意?どこがです!」
「……他の方の手を煩わせないよう、一人でこいつをなんとかしようと――」
再び、柊司の頬がぶたれる。
睨むわけでもなく、泣くわけでもなく、彼は黙って白蓮を見つめた。
「あなたが響子を庇った時点で、誠意は示されているでしょう……?」
「こいつに捕まった時点で、もう迷惑をかけてます。差し引きゼロですよ」
「みんなを、仲間を信じられませんか?」
白蓮が言うと、柊司は薄ら笑った。
「本気で仲間だと?」
「ええ」
「今朝、あなたの部屋にいた不審者夜這い疑惑野郎でも?」
「ええ」
「なら、俺を助けてみてくださいよ……」
そう言って柊司は両腕を広げた。
意図が分からず、首を傾げたり、互いに顔を見合わせる一同。
そんな中、柊司は静かに言った。
「こいつ、多分物理的には剥がれません。何度か試して分かりました。もし無理に剥がしたら、確実に肉がもげます」
そこで、一拍おく。
「白蓮さん他、誰でも良いんで、俺ごとこいつを焼くなりなんなりで殺ってください」
「馬鹿なこと言わないの。大体――」
「なら、俺は多分このままです」
皆が黙り、沈黙が流れる。
再び、柊司が笑った。
自嘲などではなく、力なくも不敵な笑い方である。
「今度は自棄じゃないですよ。助かるための提案です」
「そんなこと――」
「出来ませんか?」
今度は嘲笑うような笑い。
まるで白蓮が柊司よりも下であるような、そんな笑い方。
「最初に会った時、あなたが何らかの業、もしくは重い過去を持つ強者なのは、なんとなく分かりました」
話しているこの瞬間にも、浸食は進む。
スライムは柊司の上下半身を覆い隠し、残すは頭だけである。
「なら、ここで俺を焼くことくらい、出来るはずです。言ったでしょう、生きるためだと」
そう言って柊司は彼女に一歩近づく。
再び、両腕を広げた。
「まだ、誠意を示してませんしね?」
その言葉が白蓮の何かを突き動かした。
彼女の腕が上がり、柊司に狙いを定める。
周りが止める間もなく、炎が放たれ、柊司は轟炎に包まれた。
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