山彦と門前掃除

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瞬間、柊司の第六感が警鐘を鳴らす。 藪はまだざわめいている。 短い思考の後、彼は石段を蹴るって階段を、響子の上目掛けて飛んだ。 藪との距離はおよそ10メートル、高さは5メートルほど。 助走も無く石段を蹴っただけの柊司は、その狙いより下、響子へ激突するコースを落ちて行く。 「響子さん!!」 「へ?」 それが逆に功を奏した。 彼女は飛び降りてくる柊司を、自分に攻撃してきたものと思い、そのまま横へ避ける。 結果、柊司は藪の目の前に着地した。 「な、何するんです、柊司さん!?」 響子が戸惑いながら問いかけると、柊司は申し訳無さそうに眉毛を下げる。 が、すぐに目を逸らすと、藪に箒を突き刺した。 赤子のような奇声が藪から上がる。 響子が驚きの表情をするなか、柊司はもう一度箒を藪に放る。 と、何かが彼に飛びついた。 「何だ!?」 薄汚い粘着質な液体、スライムのような何かが、柊司に張り付く。 彼はもがき、それを剥がそうとするが、粘つくそれはなかなか剥がれない。 「柊司さん!?」 「響子さん、こいつ、何ですかっ!?」 「わ、分かりません!」 叫ぶ柊司に対して、彼女は首を横に振る。 このスライム状の化物は、彼女も知らないもの。 こんな妖怪は知らないと、響子はただ首を振った。 「ど、どうしよう……!」 「響子さん!」 再び柊司が叫ぶ。 見やると、その身体の半分ほどが化物に覆われている。 恐怖に足が震えるも、彼女は何とか声を返した。 「柊司さん!」 「寺に……、白蓮さんに知らせて!」 そう言うと柊司は藪の中へと入って行った。 ガサガサと藪をかき分ける音が遠くなり、彼が奥へと進んでいったことを知らせる。 「っ、白蓮さまぁ!!」 響子は急いで石段を駆け上り、住職の元へと向かった。
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