一日目 船頭と川流れ

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一輪が雲山に何か指示し、村紗に声をかける。 「ムラサ、雲山を下流に配置した!あなたは戻りなさい!」 「駄目だっ!」 即答、しかも拒絶。 あまりにも珍しいことに一輪は目を丸くした。 「ムラサ、あなたどうしたの?」 「コイツに仲間の素晴らしさってのを教えてやる!」 そう言ってもっと柊司へと寄っていく村紗。 柊司は柊司で、しがみついていた岩を離して別の岩へと泳ぐ。 少しだけ、河に血の赤が浮かぶ。 「そんでもって、二度とひねくれた口叩かせないようにしてやる!」 村紗がもの凄い勢いで、柊司目掛けて泳ぎだした。今度は柊司が叫ぶ番だった。 「なにしてるんですか!来ないで下さい!」 「ヤダって言ったろ!」 なおも接近してくる村紗に、柊司は溜め息をつく。 迷惑がかかる、だから他人と関わらない。 それが彼の人生哲学であった。 記憶がなくても、その考え方は変わっていない。 彼の手が岩から離れる。 否、自分から離した。 「お前!?」 「今朝、来たばかりの不審者ですよ?普通、心配なんかしないんじゃないですか?」 自嘲気味に冷笑する柊司。 その顔を見た村紗は、頭の中で何かが切れるのを感じた。 彼女の目が据わり、柊司を睨みつける。 「ほざくな、若造!!」 そう言うと彼女は更に凄まじいスピードで柊司に迫る。 さすがの柊司も目を見開いた。 が、すぐにその目を細め、同じく泳ぎだす。 「っ、雲山!」 一輪の叫びに応え、雲山が柊司を捕まえんとその手を伸ばした。 それを視界の端に捉えた柊司は、河の中に潜る。 雲山の下を、速い流れに従いすり抜け、再び浮上。 「あなた、本気!?」 一輪の驚愕した声に柊司はただ、にやりと笑い返す。 彼は本気で助けを拒む気でいた。 流れが次第に速くなっていき、村紗と柊司の距離もどんどんと開いていく。 「くそぅ、聖、早く来てくれ!」 「雲山、上空から姐さんを探して、呼んで!」 すかさず空へ舞い上がる雲山と、なお泳ぎ続ける村紗。 そして、すでに遠くにいる柊司。
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