山彦と門前掃除

4/7
前へ
/20ページ
次へ
箒を持った柊司は響子に続いて命蓮寺の門前、石段の所まで来た。 夏に入りかけの季節の、すこし蒸れったい風が吹く。 「これが、幻想郷……」 「どうかしましたか、柊司さん?」 息を呑み、目の前に広がる景色に心奪われる柊司に、響子は問いかけた。 「ああ、いや。綺麗なところだなぁって」 「ですね。私も、ここに来た時は同じことを思いました」 二人で風に当たる。 木々が小波(さざなみ)を立て、鳥達が唄う。 しばらくの間、柊司は意識を空に漂わせた。 「それじゃ、やりますか!」 「はい。ではまず、目の前の階段からやりましょう!」 意気込む柊司に笑顔で応える響子。 二人は掃除を開始した。 響子はお経を唱えながらせっせと掃く一方、柊司は無言かつ無駄なくスムーズな流れで隅々を掃いていく。 しばらく掃き、響子は感嘆の声を上げた。 「わあ、柊司さん、上手!」 「恐縮です。そう言えば、響子さん?」 「何でしょう?」 手を動かしながら問う柊司に、同じく箒を動かしている響子が振り返る。 「タメ口でいいって言っておきながら、あなたも敬語なんですね」 「あ……」 ピタリ、と響子の手が止まる。 彼女の顔は今朝の白蓮に負けず劣らず、真っ赤に染まった。 耳がパタパタと激しく上下する。 「それは、あれですよ!私にとって敬語は、親しいからこそですから!」 「まだ会って数刻しか経ってないんですけど……」 「あうっ!?」 ポン、という音と共に、響子の頭から煙が上がる。 「か、からかわないでくださいよ!」 「はは、ごめんごめん」 笑顔で笑いあう二人。 そんな彼らに、忍び寄る影がひとつ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加