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~この世のどこかには、自分たちが住んでいる所とは少し違った次元の、別世界というものが存在する…~
**********
男は走っていた。
後ろを度々振り返りながら。
まるで、何かに怯えているように。
辺りは暗く、絶え間なく降り注ぐ雪が男の不安を掻き立てる。
前方に、一つの街灯が光っていた。
「た、助かった…」
街灯に手をかけ、深く息を吐いた瞬間。
ザク、ザク、ザク…
規則正しい足音が、暗がりから近付いてくる。
男の心臓が破裂しそうなくらい、鼓動を刻み始めた。
ザク、ザク…!
足音が止まった。
暗がりから現れたのは女だ。
ショートカットの黒髪が邪魔して、顔がよく分からない。
ぴったりと黒革のボディコンスーツに包まれた、美しい身体の曲線。
男はホッと一安心し、助けを求め女に近寄ろうとした。
ヒュンッ…!
刹那、何かが風を切り裂く音が男の耳に響き渡る。
「…ぐぁっ?」
苦しい。
男がそれを認識した時にはもう手遅れである。
首にギリギリと巻き付く、赤い縄糸。
糸は女の手から操られている。
まさか…!?
「糸…使いの…アリシアっ!」
ふいに女が顔を上げる。
「素敵なニックネームだ。だけど、どうして皆あたしの事をそう呼ぶんだろうねぇ」
女の握る糸に、力が入った…
「グェェッ…!!」
糸は離れ男は力尽きて、雪に倒れ込む。
男の屍に鳥の羽毛のような美しい粉雪が、ゆっくり積もっていった。
女は男の前に屈むと、前髪を掴んで顔をみた。
「ボールド・スミス…。ふんっ、醜い面だ」
そして、ゴミのように持ち上げると再び暗闇の中に消えていった。
透き通ったような白い肌に、漆黒のショートカット。
その顔は精巧に作られた人形のように整っていて。
ルビーのような赤い瞳だが、そこに情熱的な美しさはない。
唯、光を通さない硝子玉の人形の目。
不適に笑う顔は、先程の行為に罪の意識など欠片もない。
彼女の名前は
アリシア・ナタリー。
これは、一人の殺し屋の物語…
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