夏のはじまり(記憶と夢)

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セミの鳴き声がうるさい。 レトルトのカレーは甘くてあんまり好きじゃない。 けどケントのお母さん特製の唐揚げは、ほんのり生姜と焦げた醤油の香りがした。 ポテトサラダはまだほんのりと温かかったけど、見た目もカラフルでとても美味しかった。 ふぅ、理科なんてわかんないよ。 私は食後の洗い物を逃れる口実に理科の宿題をしている。 元素がどーのこーの 「あんたは、私に似たのね」 なに、急に 「私も理科だいっきらい、だった」 へぇ… 「でも、数学とかできるとね、お給料が良い仕事につける。」 なんで? 「しらないわよ、社会の仕組み。昔からそうなの、私が生まれる前から」 なんか、イヤだね。 「そうね、だから私はデザイナーになったのよ」 へ? 「オシャレに興味ないって人はいるかも知れないけど、オシャレが嫌いって人はいないじゃない?オシャレすると幸せになれるし、良いでしょ?幸せの道具を私は作ってるの」 そうだね、素敵 「だから、あんたも。」 母さんは、洗い物を終えて 私の正面の椅子に座る。 マグカップを置いてくれる、冷房で冷えた部屋に、温かいココア 「自分が素敵って思える事を見つけなさい。そのためにこれが必要なら、これを一生懸命勉強するの、わかった?」 母さんは、理科の教科書を持ち上げ私に見せる、舌を出した白髪のおじいさんの表紙を指差す うん、わかった。
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