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目の前にいる女性がしきりに何かを話しているが、まったく聞こえない。
それどころか、視界が白く濁っていて周りの人が、物が、建造物がはっきり見えない。
……いや、違う。これは視界が濁っているんじゃない。
的確にどこにとは言えないが、視覚とは違う『視る』ことをする場所に靄(もや)が掛かったような、そんな感覚。
まるで夢を見ているような感じだ。
ん?……夢?
あぁ、そうか。これは夢なんだ。
夢ならば、彼女の声が聞こえないのも視界がはっきりしないのも当たり前だ。
でも、なんだか変な気分だ。
彼女の顔はほとんど見えてないのに、懐かしい気持ちになる。
ふと、思考を止めて彼女を見ると悲しそうに俯いてた。
理由を聞こうと口を開いても声は出てくれない。
――あれ? 周りが暗く、黒く、漆黒に染まってきてる。
……そうか。もう時間なんだ。だから悲しそうに俯いているんだね?
大丈夫。夢なら、強く望めばまた会えるはずだから心配することはない。
そう思い彼女に触れようとしたら、視界が真っ暗になった。
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