episode.1 だからこそ

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「雄一が美味しいならよかった」 俺の呟きを聞いた楓は表情を綻ばせ、嬉しそうに漏らした。 何を言ってるのだろうか、こいつは。 楓の料理が美味しいのはいつもの事なのに、嬉しそうにしちゃって。 でも、その内こいつも好きな男や彼氏に料理を作ってこんな表情を見せるのだろうな……。 んー、楓には悪いが、楓の想い人には今のまま、楓の気持ちに気付かぬ唐変木でいて貰いたい気もする。 「ホントにお前って料理上手いよな。俺もお前みたいな彼女が欲しいもんだ」 とりあえず俺に懐いていてくれている今、この時を大事にしようではないか。 「……っ!?」 そんな気持ちで放った俺の言葉を聞いた楓は顔を真っ赤に染めて、酸素不足の水槽の中にいる金魚のように口をぱくぱくさせるのだった。
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