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「そ、そうですか。そうだ、飲み物でもいかがです?おい、飲み物を。」
男が引き攣った笑みを浮かべながら、飲み物を運ぶ女性に声をかける。
「はい、ただいまお持ちします。」
ワインを持って戻ってきた女性が、あずまと男性、天翔とセレに順に渡していく。
「ささ、どうぞシャルクス殿。」
男の言葉にあずまはワインを見つめた。
深紅の液体がゆらゆらと揺れている。
口をつけようとしないあずまに男が妙に落ち着きなく急かす。
「どうしたのです?まず主賓の貴方からお飲みください。」
その言葉にあずまはなおも口づけずじっとワインを見つめた。
「飲まないなら貰いますよ。」
そう言ってあずまの手からひょいっとワイングラスを抜き取った天翔が、そのまま液体を全部飲み干す。
あずまはぎょっとした。
「っな、何して・・。」
それを見た男も一瞬呆気にとられた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。勝ち誇ったような顔で。
「ご友人はあまり行儀がよろしくないようですな。人のものを奪って飲むなど品に欠けます。」
男の嫌味はどうでもよかった。あずまは天翔を見上げて、唇を噛み締めた。
「シャルクス様はこの後も他の方々への挨拶がありますから、お酒は頂けないのです。ですが折角のご厚意を断るのも忍びないだろうと、代わりに頂いたのだと思いますよ。シャルクス様は良いご友人をお持ちです。」
セレのフォローに天翔が男に頭を下げる。
「そういうことです。いきなりの品を欠いた行為、申し訳ありません。」
男がつまらなそうに小さく舌打ちをする。
せっかく見つけた欠点を美点にされたのが面白くないのだろう。
「ですが、天翔様もあまりお酒にお強くないでしょう。顔色が優れません、すぐ医務室へ。どうぞお二人は引き続きパーティーをお楽しみ下さいませ。」
セレの言葉に天翔も頷き、連れ立ってパーティー会場を出て行くのを見送ったあずまは男に向き直った。
「・・・少々二人だけでお話したいことが。よろしいか。」
あずまの鋭い視線に男がびくりと肩を震わせる。
「え、ええ。何でしょう?」
「人のいないところのほうがいい。移動しましょう。」
言うだけ言ってあずまはさっさと歩き出した。
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