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【陰極と引力】 高鳴らない胸に水を。退屈は乾きから来るもんなんだって、泥濘へ足を進める此処からは何も聞こえません。此処からは何も聞こえません。舌の融けちゃいそうな無味無臭に爪先から沈んでいくように、踏み出す一歩一歩に、糸が切れたように。耳鳴りも子供の甲高い声も全部食べてくれる古びたコンクリートの塊に背を預けては、時々弾かれた歌声を拾っていた。気付けば踝まで食べられてしまって。過敏に感じた顔の強張りが解けた頃にはもう、外では雨が降り出しているよ。少し景色が白んで見えるくらいの優しい雨に、息を潜めて蹲って、監視カメラの死角にするするりと逃げるように、いなくなる一寸前。悲しい顔なんてどこにもない。顔なんてどこにもない。ない。背に固く当たるコンクリートが雨に解れれば僕は柔らかな灰色に包まれててさ。ああ、舌の融けちゃいそうなこの透明は何て言ったっけ?微睡み、片寄り、揺れて、迷って、流れて、のまれて、弱い僕は、ひとのみで、靴も落とさず迷子になった。
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