place1::ヲタ芸隊長と編集長

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 リトルアリスは街に縛られている。被災地に縛られている。  ──決して終わらない復興という呪いに、縛られている。  ある作家が言っていた。大災害は、元々街に潜んでいた弱みを顕在化させるだけなのだと。被災地はどこも田舎で、災害がなくったって元々生産人口が少ないのだ。阪神淡路を引き合いに出されるたびに、洋一は泣きそうな気持ちになったことを思い出す。ここは神戸じゃない、僕たちは神戸じゃない、内心で叫びながら「全国からの支援はとてもありがたくて…」などともっともらしいことをにこやかにカメラの前で話さなければならない矛盾。  神戸はあれから何年でここまで街が復興した、なのにこっちは、とか陰口のように囁かれて続けてもう5年以上が過ぎた。たぶん、10年経っても20年経っても同じことを言われ続けるんだろう。歴代の自治体長たちの主な仕事は復興庁にケンカを売ることだ。震災後、どの県知事も市長も町長も村長もずいぶんと毒舌家になってしまった。  それでも「復興」なんて言葉とは遠い侘しい日常が続いてゆく。この街は結局、そんなに派手な生き方はそもそもできない。神戸には、なれないのだ。  胸につきあがってくる苦い思い出を飲み込んで、勝たちのカメラマンに専念する。リトルアリスは、歌に入っても全く息が乱れていない。いつ見てもさすがだと思う。勝の方は結構はぁはぁ言ってる。まぁ、これも毎度のことだが。  仲間たちのうち「見学組」は「隊長すげーな」等と、これまたいつものように勝の動きに見惚れている。リトルアリス、完全無視。何をしに来たのやら。  いつの世も、アイドル(偶像)ってやつはいいように使われるものなんだろう。たぶん。それ自体に畏怖のこもるようなカリスマ性があるわけでもなく。かつてAKB48から始まった身近すぎるアイドルたち。本人の実在さえも飛び越えて単なるアイコンになる。リトルアリスについてだけ言えば、希求力が衰えていないとすれば、地元の子供たちに対して、くらいのものなのかもしれない。  華やかなギターサウンドの曲が切れる。たくさんの拍手は空と雪に吸い込まれる。 「……ちょっと強くなってきた?」  降る雪を乗せるように手をかざすあゆあゆ。
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