place1::ヲタ芸隊長と編集長

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「まだまだだいじょーぶですよ~」 「ま、それもそーね。ツアーで南から北上してきた人はいるかな、だいじょぶ?」  野太い男の声が、大丈夫ー、と答えた。 「……大丈夫って聞こえた気がするので、次はちょっと穏やかなのいきますか」  ゆったりしたロッカーバラードのイントロ。2人のダンスも静かな動きに変わる。  ブログで書いていたところによれば、この(リトルアリスにしては)穏やかな曲に乗せられたダンスは、歌詞であまり具体的に語らずに、感情や言葉を体の動きで表現してみたもの、らしい。ハワイのフラがそうであるように。と言ってもフラの動きそのまま持って来ているわけではないのだけれど。  じっと見つめていると、時々さりげなく変な動きが混じっていたりする。たとえば手を握ってはいないけど親指をぐいっと下に向けるとか(握りこぶしで親指を立てた状態で、親指を下に向けるのは、侮辱的な意味を持つジェスチャーだ)。歌自体は穏やかで普通、仕草も柔らかい。けど。よくよく見ると意味は穏やかならざるものが混じっている。  メディアでは「復興アイドル」などと持ち上げられて、一点の曇りもなく清廉潔白であることを求められてはいるけれど、熱心に追っかけているファンにだけは、そんなリトルアリスの「おふざけ」が見えてくる、そんな仕掛け。  彼女たちは一筋縄では行かない。それが面白いところだ。  月例ライブは「復興応援ツアー」と銘打った被災地観光ツアーのプログラムの1つとして組み込まれている。企画を出して主催するのは、全国的な大手ではなく、地方で営業している旅行会社だ。それも復興支援策の1つ。被災地企業が毎月、持ち回りで、リトルアリスの月例ライブの日に合わせ、2泊3日程度のプランを作り、Webサイトに掲載する。リトルアリスはブログでそのツアーを紹介し、「会いにきてねー♪」と書き添える。  月例ライブ以外に何を組み込むかは自由だが、大きな被害を受けた海沿いの町の方がこの企画には熱心で、たいていの場合は、ようやく水揚げ量が8割程度にまで戻った海の幸を目一杯(安価に)食べてもらいつつ、まだまだ復興なんて言葉とは程遠いがらんどうの町を見せて回るツアーになることが多い。
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