place1::ヲタ芸隊長と編集長

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 ツアーの申し込みや料金の支払いは全てオンラインで可能なようになっている。PCでもケータイでもスマホでも。ちなみに、大手の旅行紹介サイトに手数料を払う必要がないように、と、そのサイトの仕組も被災地の県が手を組んで立ち上げた。データセンター・サイト構築・システム開発・管理から電源供給に至るまで、すべて被災地の企業が担当している。元はリトルアリスとの連動企画で始まったそのサイトは、被災地を訪ねる旅行やボランティアのための総合サイトとして今も運営が続けられている。  だから、リトルアリスの月例ライブには「作法」を理解していないファンが混じっているのは当たり前なので、内輪だけで盛り上がって新参者がついていけない、という状態にはあまりならない。洋一は、どのアイドルファンよりも、リトルアリスのファンは心が広い、と思っていた。  ロッカーバラードが途切れると、典型的なアイドルポップが後に続く。振り付けも極限までシンプルなこのナンバーは、『ぼくのまちおんど』に続いて子供たちに人気の曲で、飽きてグズらなかった子供たちは、後ろの方の空いたスペースでまた一緒に踊り始めている。そんな子供のうち何人かは、やっぱり踊っているおにーさん(勝のことだ)を見つけて、まるで仲間を見つけたと言わんばかりによたよたと寄ってきて一緒に踊ったりする。勝も、ちらっとそんな子供を見てにっこり笑い、子供のレベルに合わせるように急に可愛らしいダンスに変えたりするのがまだおかしい。周りの仲間たちもそういうのは慣れっこなので、一緒になって動きを真似したりする。子供は、おにーちゃんが遊んでくれたと思ってきゃっきゃとはしゃぐ。連れていたお父さんからお礼言われたりする。こんなのも見慣れた風景。  月例ライブはたいてい3曲か4曲、30分もすれば終わってしまう。あとは「ハイタッチ会」。希望する人なら誰でも、ステージを降りたリトルアリスと1度だけハイタッチすることができる。もちろん毎回、見ていたほとんどのファンが参加する。  ただ、洋一はその列に並ぶ気にはなれないでいる。毎回。並んでいるファンや、ハイタッチした後のファンの表情や呟きを「取材」している方が楽しい、と勝には言っている。
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