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ステラ・カフェでカフェラテをオーダーする。定例ライブ直後はいつも混雑するので、テイクアウト用。紙袋は辞退して手に持ち、すぐ近くにある、店内の空きテナントエリアを利用して作られた休憩所に腰を落ち着ける。
閉店期間が長かったせいか、いくつかの人気ショップは震災を期にこのデパートから撤退してしまった。今はそこに安物プラスチックの椅子と丸テーブルが並び、壁に催し物や店内のバイト募集チラシが無造作に貼られている。
洋一はスマホを操作してYouTubeに投稿。毎度のことだが、これをやる日は電池の減りがさすがに多い。鞄の中にスマホを入れる時、モバイルブースターとつなげておく。
「上がった?」
「上がったよ。見てみる?」
「いや、いーや。家帰ってからにする」
ふーふー冷ましながらちびちびとカフェラテを楽しむ。体がほんのりと温まったところで、
「んじゃまー、帰りますか」
勝が先に立ち上がる。
「……帰るんだ」
洋一がちょっとだけにやにやする。
「いやまあ、寄るけどな、例によって!」
なぜか拳を握り締める勝。
月例ライブの後に「寄る」場所と言えば、洋一と勝の場合。
勝の家の近所にある「しまむら」なのである。
勝は重度の「しまラー」である。まあ大体にして、田舎の若者が少ないお小遣いで服を買おうと思うと、ユニクロとしまむらしか選択肢がないので、しまむら半径数km圏内はたいていしまラーだらけだ。勝はダンサーなので、服は「消耗品」だから特に。ヒップホップやってた時はなおさら、色んなところが擦り切れたり破れたりしていたから、そのたびに近所のしまむらにお世話になっていた。
勝に言わせれば、洋一は服を見る目があるのだそうだ。たかがスーパーの2階に併設されている程度の広さの店内で、選ぶも何もバリエイションが限られるのだが、それでも勝は、リトルアリス月例の後は洋一の意見を聞きながら服を眺めるのが常になっていた。
女子の買い物は長いと言われるが、勝も結構、長い。あーでもないこーでもないといろいろ考えて洋一を引っ張り回す。気のせいかもしれないが、どうもここ最近、店のメンズカジュアルのラインナップに勝好みのものが増えているような、と洋一は思っていた。まあ、「大きいサイズ」の点数は目に見えて拡大はしている。バイヤーは常連さんの存在を意識しているのかもしれない。
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