9人が本棚に入れています
本棚に追加
祖母は一切の家事を引き受け、今は3人で生活している。祖父はもう亡くなって1人で暮らしていた祖母は、これで倒れても孤独死はしなくて済むよ、と笑って歓迎してくれたという。
そして、洋一のことも。
「よーちゃん、おかえりー」
割烹着で手を拭きながら出てきた勝の祖母、初枝は、洋一のことを「もう1人の孫」だと言ってくれている。
「ごはんもうちょっとで出来るから、部屋で待ってなさいな」
「ばーちゃん、台所ほっといて出てこなくていーってばさ」
「よーちゃんはお客さんだからねー」
「ひいきだなー」
「いい男だしねー」
「食うなよ」
「それほど肉食系じゃないよーばーちゃんは」
からからと笑いながら台所に消えてゆく。
「……いい男だってさ」
「……毎月言うよね」
「……気に入ってんだよな、ばーちゃんは。編集長のことがさ」
「……あはは」
この家はバブルの頃に建てられた家、と初枝が説明していたことを洋一は思い出す。バブルが弾けて値が落ちた後に中古で買ったものらしい。2階建ての階段を上がり、勝の部屋にお邪魔する。
かつて勝の母が使っていた「子供部屋」はほとんど納戸扱いになっていたが、勝親子がやってきた時にまた「子供部屋」に逆戻りした。荷物を運び出し、念入りに掃除をしたのは勝自身。突然予告なく押しかけたのはこっちだから、と手伝うばーちゃんを制して働いたと話していた。
義援金なんかも少しは入ってきたけれど(何せ、住宅一軒一軒の査定をすっ飛ばして、「全部が一括で全壊判定」にされた地区なのだ)、住む家がある分だけ、仮設に入らざるをえなくなってしまった人たちよりは手薄だった。でもそれに文句を言うことはもちろん出来なかった。父も職を失っていない(しかも絶望的な多忙さだ、仕事は後から後から沸いてくる)、暮らせる家もある。それが、あの状況の中ではどれだけ贅沢なことだったか。周りを見て悟れないはずがない。
6畳和室の部屋の電気を点ける。安物の机にPC、スチールの横長のローシェルフに小さなテレビ。洋一が来る時だけはいつも出してくるという、小さな薄緑の天板のついたちゃぶ台。勝は真っ先にPCの電源と、ルーターの電源を入れていた。
最初のコメントを投稿しよう!