place1::ヲタ芸隊長と編集長

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 祖母は一切の家事を引き受け、今は3人で生活している。祖父はもう亡くなって1人で暮らしていた祖母は、これで倒れても孤独死はしなくて済むよ、と笑って歓迎してくれたという。  そして、洋一のことも。 「よーちゃん、おかえりー」  割烹着で手を拭きながら出てきた勝の祖母、初枝は、洋一のことを「もう1人の孫」だと言ってくれている。 「ごはんもうちょっとで出来るから、部屋で待ってなさいな」 「ばーちゃん、台所ほっといて出てこなくていーってばさ」 「よーちゃんはお客さんだからねー」 「ひいきだなー」 「いい男だしねー」 「食うなよ」 「それほど肉食系じゃないよーばーちゃんは」  からからと笑いながら台所に消えてゆく。 「……いい男だってさ」 「……毎月言うよね」 「……気に入ってんだよな、ばーちゃんは。編集長のことがさ」 「……あはは」  この家はバブルの頃に建てられた家、と初枝が説明していたことを洋一は思い出す。バブルが弾けて値が落ちた後に中古で買ったものらしい。2階建ての階段を上がり、勝の部屋にお邪魔する。  かつて勝の母が使っていた「子供部屋」はほとんど納戸扱いになっていたが、勝親子がやってきた時にまた「子供部屋」に逆戻りした。荷物を運び出し、念入りに掃除をしたのは勝自身。突然予告なく押しかけたのはこっちだから、と手伝うばーちゃんを制して働いたと話していた。  義援金なんかも少しは入ってきたけれど(何せ、住宅一軒一軒の査定をすっ飛ばして、「全部が一括で全壊判定」にされた地区なのだ)、住む家がある分だけ、仮設に入らざるをえなくなってしまった人たちよりは手薄だった。でもそれに文句を言うことはもちろん出来なかった。父も職を失っていない(しかも絶望的な多忙さだ、仕事は後から後から沸いてくる)、暮らせる家もある。それが、あの状況の中ではどれだけ贅沢なことだったか。周りを見て悟れないはずがない。  6畳和室の部屋の電気を点ける。安物の机にPC、スチールの横長のローシェルフに小さなテレビ。洋一が来る時だけはいつも出してくるという、小さな薄緑の天板のついたちゃぶ台。勝は真っ先にPCの電源と、ルーターの電源を入れていた。
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