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「ルーターの電源抜いてるんだ」
「ばーちゃんが引っこ抜くんだよ。待機電源減らすって言って。ばーちゃんもWi-Fiタブレットかなんか使えばこの機械の意味は分かるんだろーけどさー」
初枝は最後のアナログ世代と言えるのかもしれない。洋一たちの父母くらいになると、若い頃のポケベルから始まって、バブル経済とモバイルの洗礼とともに成長した世代だから、割と詳しかったりする。サブカルチャーも、ガジェットも。
「そういや、初枝さん、部屋に平気で入ってくるって言ってたね」
「うん。もう慣れたけどな」
苦笑する。母を早くに失った勝にとっては、そんなおせっかいは一概にイヤでもないのだろう。
起動したパソコンでYouTubeにアクセスする。既に動画にはいくつかコメントがついていた。そろそろだと思った、待ってた、などと、既に日程を把握している遠隔ファンがたいてい最初に書き込んでくる。
「うあー、パソコンで聴くとさすがにちょっと音が……」
洋一が顔をしかめる。
「いやまあ、いいんでない? むしろ。リアルタイムな感じで。てゆーか、オレの場合パソコンがオーディオ代わりだし、アラが聞こえやすいだけかもよ」
「だといいんだけどなー」
勝はその言葉どおり、パソコンの音響周りにはけっこうこだわっていた。同じネット上の音源でも、洋一の自宅にあるノートパソコンの付属スピーカーとは、同じ音源とは思えないような深い音が出る。
動画を眺めて感想を喋ったりしている間に、ピンポン、と間の抜けたチャイムが鳴る。2階と1階に離れていると声が届かないので、お互いにボタンを押すとチャイムが鳴る装置を取り付けてあるのだ。元々は、高齢の義母を心配した勝の父が用意したものだ。ばーちゃんが苦しくなったりした時に、勝が家にいれば、大声を出せなくても彼を呼べるようにするために。今のところは、夕飯ができたとか風呂が沸いたとか、そんな合図にしか使われていないが。
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