place2::翼セクサロイド

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 URスタジオ、というその弱小プロダクションの中でも、九条翼という「アイドル」は独自の地位がある気がする。もちろん、彼がURスタジオの中では少数派(というか2人しかいない)の男性だということもあるだろう。けれども。  それよりも大きいのは。  その日の月例ライブの会場は、いつものように、彼の登場する時間帯には、客が丸ごと入れ替わる。ライブに出てくる男性は彼1人で、他は女の子のアイドルたちだから、ほとんど客層はかぶっていない。中には男性の姿もちらほらいるのだけれど、見渡す限り女性ばっかり。そのつい15分ほど前は男性だらけだったのとは空気まで少し変わっている気がする。  いつもライブは週末の夕方から始まる。九条翼が登場する時間は比較的遅めにセッティングされることが多い。おかげで、地方からの遠征組である志津は、新幹線の時刻表、特に最終の時間を常に頭の片隅に置かなければならないのがちょっとしんどかったりする。  それは志津に限ったことじゃなくて、他の「遠征組」も同じだ。新幹線車内で明らかに翼ファンと思われる人と鉢合わせになったことも1度や2度ではない──のだけれど、志津から見ると向こうが恐らく翼ファンだ、というのは察しても、向こうは志津を見てそうは察しないかもしれない。  遠征組の翼ファンは、帰り際に荷物が多くなる。その荷物の大半は、薄くて高くてやたらと肌色面積の多い本だ。  そう。九条翼のライブの日は、まるで偶然みたいなフリして、一緒に同人誌系イベントが開かれる。オンリーイベント、と呼ばれる、テーマを限定して開催するタイプのものだ。その「テーマ」は、当然ながら、九条翼という生身の人間。  大っぴらに「公式」として開くわけではなくて、常にファンが「個人的に」主催することにはなっている。表向きは。主催する人たちも常に同じ人というわけではなく、4~5個のサークルや団体が入れ替わり立ち替わり。  でも、この手の会場を確保するのに、1ケ月前に突然は無理な話だ。一般向けに定例ライブの日程が公表されるより前から動かなければ、同日開催なんてことができるはずがない。
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