place2::翼セクサロイド

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 だから。ファンたちの間では「あくまで個人の趣味で」ということに表向きしているだけで、実は半分公式なんだろう、と思われている。少なくとも、この手のイベントを主催しようとする人には、日程を事前にリークしてくれて、同じ日に開くことをURスタジオが許している、と。  彼は、自分が少女たちの妄想の素材として使われることを咎めない。裏側からひっそり応援していさえする。ただの噂ではあるが、本人が池袋の同人ショップで、自分をネタにしたボーイズラブ(=男性同士の恋愛を描く物語)の本を買いあさっている、という目撃証言まで飛び出す始末だ。  彼女たちが幻想の九条翼を「動かしやすい」ように、なのか、彼はライブ前後の数日間は頻繁にSNSの一言機能等を使って投稿する。ただし言葉はなく、位置情報のみを。気が向くと10分から15分に1度は投稿されているので、IT系女子はそのデータを使って、ネット上で九条翼ストーキングマップを作ったりしている。マッシュアップとやらの技術を使って。SNSのコミュニティ機能で集まったファンの中では、オフ会と称して、彼の動いた軌跡を聖地巡礼のように実際に歩く人たちがいる。ちなみに、例の「池袋の同人ショップで」の噂も、元々は彼が本当にその店に、しかもずいぶん長いこと足を止めていたから出てきたものだ。火のないところに煙は立たない。  とにかくそんな風だから。  九条翼の客層は結構独特だ。いわゆる腐女子と呼ばれるような子たちがかなり大勢を占めている。オンリーイベント内で頒布されている本では、架空の女子と翼をいちゃつかせるタイプはさほど人気がないらしい。どういうわけか翼の隣にいるのは男ばっかりだ。たいていがあられもない格好で。  志津も一応オンリーイベントにも足を運んでからライブ会場に来るのだけれど、まだ購入したことはない。  翼を「素材化」できないから仕方ないのかもしれない。そういう目で見るのはどうも難しい。なぜなら、志津はプライベートの翼を知っているからだ。
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