place1::ヲタ芸隊長と編集長

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 「リトルアリス」ファンの小中学生の中には、この「会報誌」の固定読者がいる。ケータイやスマホは持っていても、親の方針等でガチガチにフィルタリングを掛けられてしまっている生活に慣れた彼らは、ネット検索を諦め、本としてまとまっている「会報誌」を情報源にしていたりする。  そもそも洋一がこれを作り始めたきっかけも、とあるSNSで、公式に載っているレベルのことまでサークルで「質問」するファンが多いことに気づいたからだ。知名度のない「リトルアリス」は、一番厳しい基準のフィルタリングサービスでは今でも蹴られる側だから、フィルタリング規制のある子たちはそもそも公式を見に行けないのではないか、ということに思い至ったのだ。  このネット全盛の時代に、手作りミニコミ誌しか頼れる情報源がないというのは物凄く変な感じがする。でも、そのお陰で洋一の身の回りにはいろいろなことが起こった。そのすべてが、洋一にとって楽しいことだったから、一石二鳥と言えるのかもしれない。  価格は100円、または缶飲料1本。コーヒーでもジュースでも。看板を上げているわけでも宣伝しているわけでもない。読者の口コミでじわじわと広がっている。とは言っても、せいぜい20部か30部出るくらいのものだ。このところ30部持参して、売り切れたことはない、その程度。お小遣いの少ない小学生が数人で買って、回し読みしている光景にもよく出会う。  ライブが始まる前の時間帯に、既に見知った顔の読者が洋一を見つけて歩いてくる。小学生の男の子。1冊を手渡すと、代わりにちょっと温かいコインが洋一の手のひらに落ちる。 「まいどー」  と小さな声で返すと、彼は唇の端をちょっとだけ持ち上げて笑う。そしてすぐに、提げていたカバンの中に突っ込む。晴れていれば目の前ですぐに読み出す方の彼も、小雪のちらつく屋外ではさすがに読めないだろう。
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