place1::ヲタ芸隊長と編集長

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 リトルアリスがふざけて「根城」と呼ぶその会場は、とあるデパートの屋上。屋上、と言っても、実は8階建ての5階。このデパートは5階から上の部分が、その下と比べて床面積が半分程度に小さくなる。建物を半分削り取ったように。そこに、ちょっとした屋外ステージが作られている。  この不思議な構造も、あの災害の産物だ。何のことはない、その「削り取られたような」半分を壊したのはあの震災なのだから。オーナーは、崩れ落ちた部分を再建せずにごそっと切り落として、半年以上をかけて大幅にリニューアルすることを選んだのだ。  ヒーローショーや着ぐるみショーなんかが主な使い道なのだが、月に1度はリトルアリスが無料で定例ライブをしている。ローカルテレビの夕方ワイド番組に出演していることもあり、リトルアリスのファン層は幅広い。だから、無料定例ライブは週末の昼間に開かれる。下は親に連れられた幼稚園児から、上はロマンスグレーの老紳士まで、街の人口の縮図のようにさまざまな年齢の人間が、ここに集まる。  椅子はない。みんな立ち見。ショーの内容によっては椅子が出てくることもあるらしいが、リトルアリスに限っては椅子が用意されたことがない。  それから何人かの読者にミニコミ誌を売って、在庫の1/3程度が捌けた頃に、置かれていたスピーカーから小さく音楽が流れ出す。ステージと言っても一段高い場所がむき出しにあるだけで幕はない。左右に目隠しするように高い壁があり、楽屋として使われている小部屋に通じている。ステージの開演を告げるのは音のみ。既に流れを理解しているファンは、ステージ近くに三々五々と集まる組と、ステージから離れる組に分かれる。  ちなみに、洋一と勝は離れる組だ。ステージと正反対の方向に、この場所で唯一屋根つきのエレベーター・ホールがある。その壁際に洋一は寄りかかる。ほんの少し前に勝が立つ。 「で、そっちの首尾は?」  言いながら洋一がカバンからスマートフォンを取り出す。カメラを起動する。 「今度のダンスもハイパーだっつーのよ、我らがリトルアリスはさぁ。負けてらんないっしょー」  何と戦っているんだか。勝のその言葉に洋一はちょっと苦笑する。いつものことだ。
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