place1::ヲタ芸隊長と編集長

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 勝は、多少がっしりしている大柄な男だ。こんな後ろにいてもそれなりに目立つ。そして、同じくステージから離れる組が勝を見つけて近づいてくる。 「ちーっす隊長ー」 「ちーっす」  勝を『隊長』と呼ぶ、微妙に体育系な挨拶を交わす連中は、勝も含めて、オールドスクール・ファッションから主張を取り除いてカジュアル化したような雰囲気の服が多い。女性アイドルファンというよりはヒップホップ系のライブに集まっているような感じがする。実際、勝は、洋一がかつてクラスメイトだった頃、ヒップホップ系のダンスにどっぷり浸かっていて、主に高校生で構成されたダンスチームに所属して踊っていたりしたこともあった。  洋一は踊りの良し悪しを理解しているとは言えない。それでも、勝のダンスはキレがあってカッコいい、と思う。  ただ、残念なのは。  今彼がどっぷりなのは、ヒップホップじゃなくてヲタ芸なのだ。  最初は軽い気持ちだった。リトルアリスのファンの間で、ヤケにキレのいい「カッコいい」ヲタ芸を打っている(ヲタ芸の世界では踊ることを「打つ」と表現する)やつがいる、と噂になっている頃には、洋一には、たぶん勝のことなんだろうという確信があった。当時まだリトルアリスはテレビでレギュラーを持つ前だったし、無名のアイドルユニットで目立つようなヲタ芸を披露している男と言えば勝くらいだろうと思ったから。  ふざけ半分に、遠いステージで小さく見えるリトルアリスをバックに勝の「ダンス」を背中から録画した。手や頭の派手な動きで、ほぼリトルアリスが映っていないに等しいようなその動画を、勝本人に了承を得て動画サイトにアップロードした。  リトルアリスの全国的な知名度を上げるのに、その動画がおかしな形で貢献したことは間違いない。「ヲタ芸にしてはうますぎる」などというコメントとともに引用され、広がって、アクセスが増え、ウェブサイトのネタ系ニュースに「かわいい猫動画」なんかと並んで取り上げられて、閲覧数が暴発した。やがてその音楽の方に注目する人が現れ、リトルアリス本体の公式ブログのアクセス数も跳ね上がる。
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