place1::ヲタ芸隊長と編集長

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 ファンのヲタ芸がきっかけとはいえ、リトルアリスの名前を広げるのに役立ったなら嬉しくはある。が、内心、本人たちはあまり快く思っていないかもしれない、と洋一はほんの少しだけ心配はしていた。  ただ。  ある時洋一は、リトルアリスのプロデューサー兼ディレクター兼マネージャー兼雑用係(と本人が自己紹介した)の高槻と知り合いになる。その時に本人から直接、ヲタ芸動画については感謝している、と伝えられた。少なくともリトルアリスの「仕掛け人」側が不愉快になっていなかったことが、洋一をひどく安堵させた。  その時に、かねてから考えていた「非公式ファンクラブ」の構想を洋一は高槻に話した。公式化してしまうとそれはそれで逆に高槻の負担になることは目に見えている。大手の事務所に所属しているわけでもない、半分アマチュアの域を出ていなかったリトルアリスには、人材が周りにいないから。そういうものは作りたくとも手が足りていないと高槻は歓迎してくれた。洋一のミニコミ誌に時々、公式サイトに出る前の情報が掲載されるのは、この人脈のためだった。  そして。動画投稿を続けることも高槻からOKをもらっている。表向きは勝のヲタ芸動画なのだが、その実、リトルアリスの「曲」が投稿されているのと同義で、ローカルアイドルのリトルアリスにとってはタダで宣伝してもらっているようなものだと言ってくれた。  リトルアリスの曲は、音楽配信サイトで配信されているのみで、未だパッケージ化されてCDとして売っているものは少ない。少ないというか1曲だけだ。テレビ出演の時に流れている曲のみ。他の曲は、発表イコール配信スタートで、ファンは公式ブログのその情報を頼りに配信サイトに「買いに行く」。勝もそんな1人で、発表されると直後に即買いして、そして。  「カッコいいヲタ芸」の振り付けを考えて、部屋で踊って、動画にして、仲間に共有する。 「隊長、今回難しーっすよー」 「リトルアリスは倍速で来るって思ってンだけどなー今回。だから合わせてー」 「オレ今回見学組に回りまっす! 手本見してくださーい!」  定例ライブまでの間で、仲間たちはその振り付けを覚えて一緒に盛り上がったり、「見学組」に回って応援してたりする。  そのお披露目が、定例ライブの日だ。
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