place1::ヲタ芸隊長と編集長

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「それじゃぁ参りましょうか~」  まゆまゆが子供たちに笑いかけて、 「私たちの、唯一発売されているCDから~」  唯一、をヤケに強調するあゆあゆ。また「おおきーお友達」ファンがウケる。 「一緒に踊ってねー、『ぼくのまちおんど』ー!」  能天気な子供番組BGM的な、どこが音頭なんだ、というポップな曲が流れ出す。  『ぼくのまちおんど』。この曲は、リトルアリス名義で唯一CDが出ている1曲だ。野菜や果物やコメ、肉料理に日本酒に魚介類にスイーツまで、ありとあらゆるこの辺りの「名産品」を歌詞に盛り込んだご当地ソング。子供向けの分かりやすいメロディーラインと、2人が踊るケッタイな踊りは、毎週金曜日のローカルテレビ局で番組のオープニングを飾っている。  そもそも、半分アマチュアだったリトルアリスが「プロ」として本格的に活動を維持しているのはこのヘンテコな復興支援ソングのお陰だ。歌詞に合わせて手で形を作ったり、食べる仕草をしたりする動作のひとつひとつが、まあ、端的に言うとかなりカッコ悪い。変である。少なくともリトルアリスのような年代の──20代前半の女性が進んで踊りたがるようなダンスではない。下品でもある。とある肉料理では憎々しげなアカンベーを振りまき(使う部位が舌だから)、「牡蠣」が登場すると、こともあろうにこれ見よがしに腰をくねくね振ったりするのだ。  だけれども。  大概にして、そういう、下品でみっともない動きというのは、子供にはバカ受けするものだ。親たちがいくら眉をひそめたところで、テレビの芸人たちが放つしょーもない一発ギャグを真似して喜ぶのが子供の本分だ。その本能は、残念ながら震災くらいではなくなるはずもない。  定例ライブの冒頭、ステージ前に「招待」される子供たちは、例外なく黄色い声を上げながら、その奇怪なダンスを一緒になって楽しんでいる。リトルアリスは番組のオーブニングで、毎週、県内の幼稚園や保育所にお邪魔して、この微妙な復興ソングを歌い踊り、園児たちも狂喜して一緒に踊りまくる。普段は両親や先生から「やめなさい!」と止められるような動きだって、この曲のダンスならやり放題だ。その映像が、番組のオープニングとして使われ、司会のアナウンサーが「いやー今週も子供たちは元気ですねー」などと苦笑しながら始まる。それが定番になっている。
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