003 危機 小柳翔太

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 翔太と綾子は駆け足気味に先へと進んでいた。  迷路の入り口を抜けると、少し気味の悪い装飾が壁を覆っている小部屋があった。  「うわぁ、気持ち悪ぅ」と綾子が言う。  だが、翔太はそれを気にせず、さっさと先に進んだ。  一刻も早く先に入った明と今日子に追いつかなくてはならなかった。  巨大な目玉や鼻のオブジェが至る所に設置されたその部屋を通り抜けると、長い廊下が見えた。  廊下を少しだけ進むと、迷路の外にある喧騒、例えば蝉の声だったり、風で騒ぐ木々の揺らめき等は、まったくと言っていいほど聞こえなくなっていた。  靴の下は硬いタイルが張られていて、こつこつと言う子気味の良い音を響かせている。  だが、やはり、翔太は、そんな周囲の状況に対して、少しも何かを思う余裕がない状態にあった。
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