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「やだーっ!無理無理無理」
「ここまできたんじゃ。喚かずに腹くくれ」
腰の引けた斎の手を取る。
「だって…ウルだって知ってるでしょ?あたしこんなとこ飛び込んだら絶対溺れるって!」
必死に足を踏ん張っとるのもええが、あとがつかえているしのぅ。
「すまんがこの通りじゃ。先にいってくれ」
並んどるやつらに声をかければ、あきれたような微笑ましいような顔をしていた。…不本意じゃ。
「じゃ、お先」
言うやいなや崖から飛び出し、高い水しぶきをあげてダイブした。
崖といっても、海面まで二メートルやそこらなんじゃが、さらに顔を青くする斎。
「や、やっぱ無理…」
逃げ腰になる斎の隙をついて横抱きにする。
「わっ!…え、ちょっとまさか」
「いくぞ。しっかりつかまっとれ」
絶望に染まる顔に罪悪感がないわけでもないが、これしか方法がない。仕方ないと割り切り、斎を支える手に力を込める。
「~~~~っ」
首にしっかりと腕が回されたのを確認し、ワシも崖を蹴り海に飛び降りた。
いまだ身体を固くして、しがみついとる斎の肩を軽くたたく。
恐る恐る顔をあげる様子が小動物のようじゃ。
目を見開き、瞳に青を写してきらきらと輝く。
ゆっくりと浮上して海面に出ると、やはりきらきらとした顔がワシを見とった。
「ウル、海!すっごいきれいだった!なにあれすごい!」
興奮ぎみに話し出す斎に思わず笑みが漏れる。
「たまには飛び降りるんもええじゃろ?」
と言えば、肩を揺らす。
「え…それはやだ」
あからさまに顔を曇らせた斎に苦笑して、もう一度海に引き込んで。
揺らめく光のなかでキスをした。
(一番好きな場所でオヌシと時間を共有したかった)
(そう言ったら驚くんじゃろうか)
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