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意識が浮上するのを自覚した。
今までは寝ていて、今から起きるのだ。
ぱちり。
目を開けると見知った顔が覗き込んでいた。
そのまま、人物を無視し天井を見上げること数分。
半泣き状態の奏風に声をかけた。
「世話かけたな、奏風」
「…なんやねん、人が心配しとるっちゅーに無視とか…」
ひどいやんか!
正論だ。自分でも悪いと自覚しているためすぐに謝る。
だがしかし。
「すまない。だが、あれは癖なんだ。起きて数分は動けない」
紅い目をしばたかせ話を聞いていた奏風は、深くため息を吐いた。
「ほんまに、なんやねん…」
へにゃり、と顔を崩しうなだれる頭を撫でた。
なぜこんなことになったのかと言えば、いくつかの書類の提出期限が重なったことや、私用で出かけなければならないことができたとか、季節の変わり目だとかが一気に負担となって、身体に影響を及ぼしただけのこと。
一言でいえば、オーバーワークだ。
保険医として情けないかぎりだ。
「……で……なや…」
「ん?」
ひとしきり自己嫌悪に苛まれ反省していると、シーツに顔を埋めた奏風からくぐもった声が聞こえてきた。
「一人で無茶すんなや!俺や斎ちゃんや他にもぎょうさん人がおるんやで!…少しは頼りぃ」
ばっと顔を上げまくしたて、しかしやはり、眉を下げ心配そうにする。
罪悪感とともにうれしいと思った。ゆるんだ口元は気付かないふりをして、今はただ一言。
(ありがとう)
(ありきたりでも何でも、今一番伝えたい言葉を)
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