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(…あ…っう…)
変な夢を見た気がして目を覚ます。
最近の私は、悪夢にうなされることが多い。どんな夢だったって訊かれても覚えていないんだけど。
なんとなく……淋しいような、哀しいような。
「悠火、早くご飯食べて学校いきなさい!」
「は~~い」
いつものように朝ご飯を食べて、いつものように玄関を出て、いつものように学校へ行って、またいつもの平凡で退屈な日常が始まる――私はそう思っていました。
でも。
そうじゃなかった。
高校へ向かう通学路の途中にある神社。ここの脇道へ入ってゆくと学校への近道に続いている。
その日は悪夢のせいもあって、ちょっと寝過ごしていたから、私は迷わずに神社へと足を向けた。
そうしたら、神社の裏手から笛の音が響いてきた。すごく綺麗な音色で、私は少しぐらいならいいよねって様子を見にいっちゃったんだ。
それが、長いようでいて、とても短い、冒険の旅の始まりだったんだ。
『待っていました……』
神社の裏手にある林の奥に泉が沸いていた。
私にはその泉が光って見えたの。
声が聞こえた。笛の音はさっきよりも強く大きく聞こえて。
『天の火鉾(ひほこ)の巫女よ……』
なんのことかわからないけど、その声は私のことを言ってるんだって、それだけはわかったんだ。
『流れはゆるやかな旋律を……遡りては穏やかなる静寂を……刻、渡りては夢幻の……』
私の立っている場所がふいになくなったような感覚がして。私の体は泉から溢れだした光の海に沈みこんでいった。
笛の音が、声が、ぐるぐると回る。
回る、回る。
『…呼びて……為さぬは……巫女の……宿命よ…』
私の意識は薄れていった。まるで揺りかごの中で眠りにつくように。
ボクの前を悠火が横切ってゆく。こんな場所を通るってコトは遅刻ギリギリ……ボクもヤバいかな。
ボクは彼方(かなた)。悠火の悪友?ってヤツな。
不登校気味で素行不良な学校のお荷物。
本当ならとっくに退学にでもなってんだろうけど、親が理事長で実は成績優秀って裏があるから辞めさせられないらしい。それでも出席日数足んなくて一年ダブったのはご愛敬でしょ。
ん? 当たり前か。
見つけてしまったんなら仕方ないと、悠火に「学校へ一緒に行こう」と声を掛けた。
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