屋根裏の待ちぼうけ

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 外の人たちは私を引きこもりだとは言うけれど、それは私のせいじゃない。  学校に通わせてもらえないからで、外出を禁じられてるから。  下の階にいつも継母がいる。そうして、私を見張ってる。    朝早く、窓に小石の当たる音がした。本当に小さな音。私じゃなかったら聞き逃してしまうような。私はすぐに窓に近づいた。 「何? 何の用?」  向かい側の家の窓から、男の子が顔を出している。幼馴染のウィルだ。 「セナ、抜け出そうよ。俺が手伝うからさ」  にこにこと笑ってウィルが言った。 「そんなことできないよ。今、歴史の勉強してることになってるの」  私はとんでもないという風に首をふってみせた。  ウィルは目を丸くした。 「勉強? お前のおふくろさん何考えてるの? こんな天気のいい日に外に出ないで死んだ知識を頭に詰め込めさせるなんて!」  ウィルが鼻からピーナッツを噴きそうな勢いで言った。 「俺が一言言ってきてやろうか?」 「ダメダメ! そんなことしたら、次に日の光を見るのは私が死体になって葬儀屋に運び出される日になるよ」 「考えすぎだって」  ウィルは笑うけど、これは笑い事じゃない。  外出禁止にされてから一カ月くらい外に出ていないっていうのに。(数日前に、ウィルの助けで遊びに行ったのをのぞけば。)学校にも行くなって言われて、鍵をかけられて出られない状態。  食事は一日三回出される。お盆に載せられた冷たいのが、階段に備え付けられたバリケードのような頑丈な柵の横に置かれてる。  それを持って、部屋に戻る。食事はいつも一人で食べる。  継母のマチルダにとって、私は家の屋根裏、(いやもっと悪いかも)巣穴に住んでるねずみのような存在でしかない。マチルダは連れ子の私を厄介な生ごみを押しつけられたとでも思ってるんだろう。  この生活を始めて一年と数カ月。  この期間で私は抜き足差し足がうまくなった。  マチルダは音にひどく敏感で、すこしでも私が椅子をひきずると廊下に向かって怒鳴り出す。今の家に安心なんてあったもんじゃない。  夜中にこっそり起きているときなんか、息をひそめて動かなくちゃいけない。  私は窓わきに立てかけてあった、イーゼルを起こした。  天気のいい日は、絵を描くのにかぎる。
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