屋根裏の待ちぼうけ

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 二年前に仕事で外国へ行ってしまったお父さんの油絵の道具はそのまま部屋にある。この道具たちをじっと見つめていると、お父さんの声を思い出してしまう。  部屋からは毎日同じ景色しか見えないけれど、毎日少しずつ違う。家にいるとき、お父さんはよくここにきて趣味で油絵を描いていた。私もよく真似をして、筆もって横で落書きしたりしてたのを覚えてる。  今、お父さんはいないけど、私はお父さんの代わりに窓から見える景色の変化を絵に描くようになった。    昼間はほとんど絵を描いていて、換気のために窓は開けっぱなしにしていた。  太陽が高くなって来た頃に、またウィルが顔を出した。今度のウィルはエプロンをつけて、フライ返しを持っていた。ウィルの家は大家族で、食事など家の仕事は分担している。 「お昼からカレー?」私が聞いた。「においがする」 「あ、そうそう。今日、うちの親でかけてるから、俺が作ってんの。においでわかった? 俺カレーくさい?」  ウィルはくんくんと鼻をエプロンに近付ける仕草をした。 「そうじゃなくって」私は笑った。 「マチルダはいないの?」ウィルが聞いた。 「うん」と私はうなずいた。  今日はめずらしくマチルダは出かけていた。ウィルのお母さんが聞いたらしいけど、マチルダは病院に通っているらしい。私とウィルは、心の病気じゃないかって推測している。 「じゃ、チャンスだ。外に出られるぜ!」とウィルは言った。 「でも、どうやって?」  家には鍵がかかっていて、私はかんたんに外に出られない。そのことを知っているはずのウィルは、どんとエプロンの胸を叩いてみせた。 「俺に考えがある。任せろ」  そのとき、ウィルの名前を呼ぶ女の子の声がした。 「あ、妹が呼んでる。そろそろ、交代しろって言うんだ。今日、俺の当番なのに代わってもらってるからさ」 「そう、じゃあまたね」  開いたままのウィルの部屋の窓から、賑やかな音が聴こえてくる。  なんてうらやましいんだろう。ウィルには、温かい食事が待っている。  がちゃがちゃ食器を動かす音に耳をかたむけながら、私は窓枠に頬をのせて目を閉じていた。  しばらくたった後、窓に何かがちらついて見えると思って、窓から下をのぞいた。  ウィルが梯子を持っておたおた歩いていた。それは、古そうな木製の梯子だった。 「どうだ、これ」梯子を持ちあげてごきげんなウィルは言った。
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