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「この梯子すげぇんだぜ」
「何が?」私は期待はしないで聞いた。
「きのこが生えてんだ」
きのこって……。すごいどころか、不安要素が増えただけだ。
「それ、腐ってるんじゃない?」
目に見えて緑色になっている部分を見つけて私は指摘した。
「まあ、一回くらいは使えるだろ」どうってことなさそうにウィルは答える。
「一回って……」そんなばかな。
使う途中で壊れることを見越して言ってるらしい。かなり危険なんだけど。
前に、アルミ製の脚立もあったのだけど、それはすでにマチルダに没収されている。静かに慌てずに降りればよかったのに、下でウィルがせかすものだから、脚立が倒れてしまったのだ。ちょうど庭木の上に脚立が乗って、すぐ横の窓際にいたマチルダに見つかってしまったというわけだ。
だけど、危険を冒す必要があるかどうかを考えると、そうでもないような……。
「やめておく。まだ、いい」と、私は答えた。
梯子は最後の手段にとっておくことにする。
外に行くのは無理だろうと思ってたのに、下の階につながる階段の柵は開いていた。
私は外に出ると、ウィルと遊びに出掛けた。そして、うまくマチルダが帰ってくる前に部屋にもどると、体のどこの部分も外に出ていないふりをした。
私は間違いを犯した。
こんな日差しの強い日に外に出るんじゃなかった。知らぬ間にじりじりと肌が焼けていたらしい。後悔したけれど、もう遅い。
「家のなかにいて、どうして日焼けするのかねぇ」
マチルダがギロリとつぶれたような眼を私に向けた。
私は、夕食を取りに降りてきたときに運悪くも帰ってきたマチルダに見られてしまったのだ。私は無実を装うことにした。
「あの、最近天気がよくて、窓際に良く座ってたからかもしれない。うん、きっとそう」
「ふーん?」
とんがった赤い口先を近付けて、マチルダは言った。まるで嘘発見器だ。私のなかの嘘を見つけ出そうとしている。今にも、口からピーピー音を出しそうだ。
「部屋に戻りなっ!」
マチルダが怒鳴った。
私は部屋への階段を駆け上りながら思った。
絶対にお父さんはマチルダにだまされたんだ。マチルダは、お父さんの寂しい心に付け込んだんだ。そうじゃなきゃ、マチルダとお父さんが結婚するはずない。
私は部屋に戻ると、隅にある小さな机の引き出しから手紙を取り出した。
未来に希望を持てるのはこの手紙のおかげだ。
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